今回26回目の開催となる「VOCA展2019」では、33人(組)が出品します。この中から5名の選考委員によりVOCA賞1名、VOCA奨励賞2名、VOCA佳作賞2名が選ばれました。
そして大原美術館賞が館の選考により決定しました。
VOCA賞 東城 信之介
「アテネ・長野・東京ノ壁ニアルデアロウ摸写」
錆・顔料・油彩・アクリル・ステンシル・転写・鋼板
230×369cm
2017年アテネを訪問した際、そこで見た壁に故郷(長野)を重ね合わせた。その頃世界各地で壁の写真を撮り歩いていたが、どの国も壁に世相が像として残り強制的にそれと向き合わさせられた。そして特定の物体に疑念を抱く自分と他者が触れたものに執着してしまう自分は、それらを媒介させ作品にする事で不安を払拭し自分事として着地させた。これから訪れる世界的催事の反映がどういう形で現れるかはわからないが、きっと似た ような壁を目にするのだろう。
東城がアテネで察したのは同じ「国際的な大会」を開催した故郷・長野と同質の荒廃だった。そして彼が制作において重視してきた二者関係「物質と作家」「過去と現在」には「世界」と「未来」が加わった。本作の視覚的性質は街角の「壁」それ自体が社会の「鏡」であることを暗喩し、そこには表現と主題の強固な結縁 が窺える。
絵画、写真、映像、布など表現媒体が多岐にわたる傾向は今回も顕著であった。複数の作品やパーツの組み合わせも目立った。日常を改めて見直す追求もあったが、社会的問題への問いかけや文明批評的な作風も散見された。VOCA賞となった東城信之介の《アテネ・長野・東京の壁ニアルデアロウ模写》は、繰り返される国際的な大会に対する風刺的態度を、光り輝く鋼板へのエネルギッシュな殴り書きや転写によってほのめかしている。
各作家が生み出したメッセージのリテラシーに新たな平面の語法があり、それらの独自性に注目した。東城氏の受賞作にはグラフィティ風の筆法と金属の物質性、画像転写や歪像反射が、タイトルが示す意味のレイヤーに重なる。行為の痕跡を物質と手仕事の量として見せた遠藤氏の受賞作のような「画家ではない作家の平面作品」にもひかれる。祖母の不在を輪郭線で示して物と写真像/平面の関係を見せる石場氏のねらいは、近藤恵介氏や鬣恒太郎氏の突き詰める絵画の問題と裏面でつながっている。
最初に出品作を一覧した際、画面への映り込みが多いなという印象を持った。
それは、例年に比べて、画布に描かれた絵画が明らかに減り、写真、あるいは紙や画布以外の素材を用いた作品が増えたことが理由である。ただ、それはその選択の根底に、目の前に立つ私、あるいはそこに射す光を鮮明に顕現させようとする意識、つまり作品に「今」と「観客」を取り込む意識が横たわっている気がする。
これまでにも増して多様な技法の表現が集まった。写真を使った作品も目立ち、またネット上のイメージを収集し加工するものも散見された。なかでVOCA賞の東城信之介《アテネ・長野・東京ノ壁ニアルデアロウ模写》は、オリンピック開催都市の壁の落書き(の重なり)という体裁を取りながら、過去と現在、そして来たるべき未来を射程に据え、社会を映す「鏡」としての絵画の役割を、多層に見える錯視的画面のなかに批評的に体現して見事であった。
確実に世代が交代しつつある。全体としてどこに焦点が結ぶかは定かではない。堂々たるペインタリーな絵画らしい絵画は少なくとも前景を占めていない。
今回のVOCA賞の東城信之介作品の鋼板をグラインドさせた線条によって、錯視的な空間の厚みを現出させていた。そこにオリンピックにまつわるイメージ群が渾然と配されている。ピントが合わないのは、批評なのか、ひとつの現状確認なのか。その疑念が現代的である。
作家 | 推薦者 | |
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新井 卓 | 工藤 香澄 | 横須賀美術館 学芸主査 |
石垣 渉 | 森本 陽香 | 名古屋市美術館 学芸員 |
石場 文子 | 千葉 真智子 | 豊田市美術館 学芸員 |
遠藤 薫 | 長谷川 新 | インディペンデント・キュレーター |
大平 由香理 | 川延 安直 | 福島県立博物館 学芸課長 |
尾角 典子 | 住吉 智恵 | TRAUMARIS, RealTokyo アートプロデューサー/ディレクター |
岡本 高幸 | 中尾 英恵 | 小山市立車屋美術館 学芸員 |
片山 達貴 | 吉原 美惠子 | 徳島県立近代美術館 上席学芸員 |
喜多村 みか | 山峰 潤也 | 水戸芸術館 現代美術センター 学芸員 |
金城 徹 | 小林 純子 | 沖縄県立芸術大学 教授 |
クスミ エリカ | 吉崎 元章 | 札幌市文化芸術交流センター SCARTS プログラムディレクター |
KOURYOU | 筒井 宏樹 | 鳥取大学 准教授 |
近藤 恵介 | 神山 亮子 | 府中市美術館 学芸員 |
笹山 直規 | 成相 肇 | 東京ステーションギャラリー 学芸員 |
佐野 直 | 楠本 智郎 | つなぎ美術館 主幹・学芸員 |
白井 晴幸 | 三本松 倫代 | 神奈川県立近代美術館 主任学芸員 |
鈴木 諒一 | 植松 篤 | 静岡県立美術館 主任学芸員 |
関川 航平 | 田村 麗恵 | 東京都美術館 学芸員 |
滝沢 広 | 大浦 周 | 埼玉県立近代美術館 学芸員 |
多田 友充 | 高橋 しげみ | 青森県立美術館 学芸主幹 |
鬣 恒太郎 | 遠藤 水城 | 東山アーティスツ・プレイスメント・サービス 代表 |
田中 真吾 | 福元 崇志 | 国立国際美術館 研究員 |
田中 武 | 小金沢 智 | 太田市美術館・図書館 学芸員 |
チョン・ユギョン | 趙 純恵 | 福岡アジア美術館 学芸員 |
手嶋 勇気 | 松岡 剛 | 広島市現代美術館 主任学芸員 |
東城 信之介 | 山内 舞子 | キュレーター |
中島 麦 | 荒井 直美 | 新潟市美術館 学芸係長 |
中山 明日香 | 岡本 梓 | 伊丹市立美術館 学芸員 |
西村 有 | 坂元 暁美 | 上野の森美術館 学芸課長 |
堀 至以 | 野中 祐美子 | 金沢21世紀美術館 アシスタント・キュレーター |
三家 俊彦 | 吉田 成志 | キュレーター |
三輪 恭子 | 正路 佐知子 | 福岡市美術館 学芸員 |
目 | 畑井 恵 | 千葉市美術館 学芸員 |
VOCA展は、「VOCA展」実行委員会が全国の美術館学芸員、ジャーナリスト、研究者などに40才以下の若手作家の推薦を依頼し、その推薦に基づき、作家が平面作品の新作を出品するという方式で、全国各地から未知の優れた才能を紹介しています。
日程 | 3月13日(水)午後3時 - 5時 |
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パネリスト | 島敦彦、光田由里、柳沢秀行、小勝禮子、水沢勉、内海聖史、齋藤芽生 |
定員 | 150名(要申込み) |
住所・氏名と、シンポジウム参加希望を明記のうえ、FAXまたはeメールにてお申し込みください。
定員となり次第、締め切らせていただきます。
申込み先 |
上野の森美術館「VOCA展」係 FAX:03-3833-4193 eメール:voca2019_v@ueno-mori.org ※申込みの際に取得した個人情報は、申込み者への通知および予定変更等の連絡のみに使用いたします。 ※メール受付は1月25日より行います。 |
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問合せ先電話番号 | 03-3833-4191 (上野の森美術館) |
日程 | 3月16日(土)午後3時 - 4時 | 遠藤薫、チョン・ユギョン |
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3月23日(土)午後3時 - 4時30分 | 石場文子、喜多村みか、東城信之介、目 |
※申込み不要。ただし、展覧会の入場券が必要です。
日程 | 3月17日(日)、24日(日)午後3時 - 4時 |
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※申込み不要。ただし、展覧会の入場券が必要です。
日程 | 3月27日(水)午前10時 - 午後2時30分 |
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会場 | 上野の森美術館 、東京都美術館 |
対象 | 小学1年生〜高校3年生とその保護者 |
定員 | 15組30名 |
主催 | museum start あいうえお |
若手アーティストの登竜門、上野の森美術館「VOCA展」と、東京都美術館の野外彫刻。お気に入りの作品を探しに2つの美術館に出かけよう。
*保護者は、VOCA展観覧料(600円)がかかります。
3月14日 (木) 〜 3月30日 (土)
入場料:無料
会場:上野の森美術館ギャラリー
開館時間:10:00〜18:00
*最終入場閉館30分前まで
イベント:「内海聖史アーティストトーク」
日時:3月18日(月)15時〜
mimic pantins. 2017 油彩、水彩、カンバス 7200×6369×30mm
3月1日(金)〜4月19日(金)