今回のVOCA展は、写真や映像を利用したものがほとんど見られず、文字通り「描く」行為に徹した作品が多かったことが特色である。賞の候補作品は、いずれも粒選りの力作であったが、なかではVOCA賞を得た三瀬夏之介の「J」が、歴史の記憶と想像力の飛翔による豊饒なイメージの炸裂がもつ鮮烈な迫力が高く評価された。どこか幻想的な官能性を湛えた樫木知子と、抑制された表現のなかに知的情念を感じさせる竹村京の二人の奨励賞作品も今回の収穫である。佳作賞には、無垢な不気味さを孕んだ櫻井りえこと、明かるくのびやかな色彩感覚の今津景が選ばれた。
絵画(ここでは「平面」としているが)の表現記号の多様性が、おのずと見てとれる、実に面白い展覧会です。また、経験の浅い若い作家たちにとっては、試みの次元にとどまっている(と思われる)作品や、もっと自分の資質に照らした手法の開発に努めたほうがいいと考えられる作品など、さまざまですが、それにしても今回はなかなか多彩で興味深い作品が多くあったような印象です。
今は絵画の時代であることを、改めて確認することができる、今回のVOCA展である。特に具象作品に、質が高く、しかもユニークな方向性を示すものが多く見られた。VOCA賞の三瀬夏之介の作品は、さまざまなイメージを乱脈に交錯させることで、絵画表現の本来的な豊かさを納得させる。竹村京の柔かで繊細な空間感覚、今津景の不思議な批評性をはらんだ時代感覚、樫木知子の発想の独自性と描写力の確かさも注目されよう。
いつになく充実した内容で、久しぶりに楽しく緊張した審査でした。全体に、絵画というものをもういちど原点に戻って見直そうとの意欲がみなぎっています。三瀬さんの大賞作品が「絵画の豊かさ」の模範を示すのに対し、竹村さんは「絵画の2次元性」を3次元から問い直し、樫木さんはむしろ平面性を絶対化します。今津さんは現代の黙示録的なビジョンをとらえ、櫻井さんは現代人の心の奥底に迫ろうとしています。いずれにしてもみな、ただの絵ではありません。
今年の出品作品に写真作品が少なかったのは、意外でもありました。混屯とした今日にあって個々人の世界観を乾いた視点で描き込む具象傾向が目立ったように思います。写真や映像がそれぞれの生活に深く入り込む中で、「日常的に描く」という行為の足元を見つめようとする作家の意志が伝わるような絵画表現が印象的でした。
今年も厳しい審査となりました。眼の前にある作品が、現代において「絵」を描くという意味そのものを表わしているとすれば、VOCA賞に輝いた三瀬夏之介氏の「J」が「戦争画」の身振りを見せる作品であったことは、不穏な問いかけを私たちに投げかけることになりました。その不穏さは竹村京氏の半透明のレイヤーによって浮上する「日常」の、もうひとつの影の質感でもあり、今回の審査は改めて、現代の心象を響かせる絵画のありようを意識させられることになりました。
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