VOCA展 2022のミュージアムショップでは、出品者(一部)のグッズを販売しています。
会場では写真撮影が可能です。
撮影に関する際は、フラッシュの使用不可、動画撮影禁止など、会場にある注意事項を守って他のお客様の鑑賞の妨げにならないようお願いいたします。
VOCA展では全国の美術館学芸員、研究者などに40才以下の若手作家の推薦を依頼し、その作家が平面作品の新作を出品するという方式により、全国各地から未知の優れた才能を紹介していきます。
VOCA賞 川内 理香子
「Raining Forest」
油彩、カンヴァス
227.3×363.6×6cm
内と外の境界線を探して線を引く。その線にその瞬間の身体の動きや思考が凝固する。今回VOCAで出品した作品に描かれるジャガーは、自然のヒエラルキーの最高峰と神話の中で位置づけされる火を、人間にもたらすものだ。自然と人間を結合し、分断もさせ、それらの媒介者であるジャガーの両義性は、肉体と精神の狭間で揺れ、自己と他者の曖昧さを保有する身体とも重なり、物質とイメージや思考の結合である絵画という媒体の中で鎮座する。
動物たちや臓器、星々が、塗り重ねられた油絵具から彫り出すように描かれている。「食」への違和感と興味を抱く作家による〈Mythology(神話)〉シリーズの代表作である本作は、自己と他者、内部と外部といった境界が曖昧な内臓の襞のようであり、グローバル化と分断が支配する現代に多層的な問題を提起している。
今年の入賞作品は、作品を見るだけではなく、読み解く楽しさに満ち溢れていた。
川内理香子の作品は、皮膜のように重ねられた柔らかい絵具層から、植物、動物、内臓、文字が、自然に浮かび上がってきているように見える。その一方で、頓着のなさを装って意図的に刻まれた痛々しい傷のようにも見えた。ひとつの細部に向かう視線が、他の細部へと加速度的に繋がり、イメージが交代する。イメージの生成を問い直す秀作である。
近藤亜樹の作品は、色、線、モチーフ、構図などすべての要件を総動員して、生きていることの喜びをストレートに伝えている。少年が、正面から動きや色を抑え、写実的に捉えられる。2枚のパネルを併置したこの作品は、まるでアルバム写真を描きなおし、それらに新たな生を与えなおしているよう。そこにこれまで大きな動きを持った画面をつくってきた彼女の新たなる力量を見た。
長引くコロナ禍において、アーティストにとっては異常事態での制作がもはや「日常」と化している。審査する側もコロナとの付き合いに慣れ(?)、束の間かもしれないが感染者数が減った状況下で、昨年よりも落ち着いた気持ちで作品に向き合うことができたように思う。
受賞作にはどれも個性がはっきりと出ており、主張と手法の面白さを感じさせるものが揃った。淡々と、着々と実践を続けるアーティストたちの仕事が頼もしい。
パンデミック渦で若手のアーティストたちがこの時代にいかに対峙し、表現し、何を伝えようとしているのか。初の審査であったが、変わらず多様な表現はあるものの概して絵画が多い印象を持った。その中でVOCA賞を受賞した川内理香子の厚塗り絵具の層上に刻まれた線には、内なるエネルギーの発露が漲り、圧倒的な存在感が示されていた。奨励賞の鎌田友介は20世紀の歴史が交錯する日本家屋をテーマに、平面作品として与えられた出品条件下で自らのリサーチ成果を見事に昇華していた。
コロナ禍による非日常が常態化する中、作家たちの内省的な態度は深化し、それぞれの作品には思索の深まりが感じられた。VOCA賞・川内理香子、そして奨励賞・近藤亜樹の作品は、どちらも命をめぐる物語性の豊かさが突出していて目を惹いた。絵画の可能性を拓くひとつの道を示したとも言える。奨励賞・鎌田友介の作品は、海外で積み重ねてきたリサーチの成果をひとつの平面にまとめ上げた構成力の見事さとともに、歴史を読み直す透徹した眼差しが印象的だった。
途中までは得票が分かれ、誰がVOCA賞になるか、予想のつかない審査だった。全体的な傾向としては、いつにもましてジャンルや技法の多彩さが感じられた。近年ではそれがVOCA展らしい、とすらいえるのだが、なぜ今回強く感じたのだろう。賞候補を競い合った作品の技法が、多様だったためかもしれない。それらの中から川内理香子の絵画がVOCA賞となった。豊穣な想像力にふさわしい大きさを持ち、身体的な線の力は、豊かな絵画的体験をもたらしてくれる。
「VOCA展2022」の出品作家33名(組)が決定しました。作家と推薦委員は下記のとおりです。
(敬称略)
作家名 | 推薦者名 | |
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泉川 のはな | 上間 かな恵 | 佐喜眞美術館 学芸員 |
大関 智子 | 石倉 敏明 | 秋田公立美術大学 准教授 |
尾関 諒 | 野村 しのぶ | 東京オペラシティ アートギャラリー シニア・キュレーター |
加藤 笑平 | 坂本 顕子 | 熊本市現代美術館 学芸員 |
鎌田 友介 | 正路 佐知子 | 福岡市美術館 学芸員 |
川内 理香子 | 森 啓輔 | 千葉市美術館 学芸員 |
川島 崇志 | 小原 真史 | 東京工芸大学 准教授 |
木浦 奈津子 | 原田 真紀 | インディペンデント・キュレーター |
小森 紀綱 | 立花 由美子 | 静岡大学 専任講師 |
是恒 さくら | 慶野 結香 | 青森公立大学 国際芸術センター青森 学芸員 |
近藤 亜樹 | 毛利 直子 | 高松市美術館 学芸員(美術課長補佐) |
THE COPY TRAVELERS (加納俊輔、迫 鉄平、上田 良) |
岡里 崇 | 上野の森美術館 学芸員 |
齋藤 春佳 | 木内 真由美 | 長野県立美術館 主査学芸員 |
柵瀨 茉莉子 | 藤川 悠 | 茅ヶ崎市美術館 学芸員 |
塩原 有佳 | 鎮西 芳美 | 東京都現代美術館 学芸員 |
System of Culture (小松利光、佐々木祐真) |
大澤 紗蓉子 | 横浜美術館 学芸員 |
髙田 裕大 | 赤井 あずみ | 鳥取県立博物館 主任学芸員 |
多田 圭佑 | 井関 悠 | 水戸芸術館 現代美術センター 主任学芸員 |
舘田 美玖 | 尺戸 智佳子 | 黒部市美術館 学芸員 |
谷澤 紗和子 | 中村 史子 | 愛知県美術館 主任学芸員 |
張 小船 Boat ZHANG | 穂積 利明 | 北海道立近代美術館 主任学芸員 |
手嶋 勇気 | 竹口 浩司 | 広島市現代美術館 学芸担当課長 |
長原 勲 | 岸本 和明 | 奈義町現代美術館 館長 |
野原 万里絵 | 大槻 晃実 | 芦屋市立美術博物館 学芸員 |
平田 尚也 | 桝田 倫広 | 東京国立近代美術館 主任研究員 |
藤田 紗衣 | 国枝 かつら | 京都市京セラ美術館 学芸員 |
堀江 栞 | 岡村 幸宣 | 原爆の図 丸木美術館 学芸員 |
水上 愛美 | 中尾 拓哉 | 美術評論家 |
武藤 江美奈 | 高橋 綾子 | 名古屋造形大学 教授 |
村田 啓 | 伊藤 貴弘 | 東京都写真美術館 学芸員 |
むらた ちひろ | 山本 麻友美 | 京都芸術センター アーツ・アドバイザー |
本山 ゆかり | 鈴木 俊晴 | 豊田市美術館 学芸員 |
ユアサ エボシ | 小林 公 | 兵庫県立美術館 学芸員 |
日時:3月11日(金) ~ 30日(水) 10:00~17:00
場所:上野の森美術館ギャラリー
本館横のギャラリーでは、過去のVOCA展出品者から特に注目される作家を1名選び個展を開催しています。
今回は、VOCA展2001に出展した青野文昭さんのインスタレーションをご覧いただきます。
会場でのアーティスト・トークは開催いたしません。
受賞者と選考委員にインタビューした映像を会期中にVOCA展HPに公開する予定です。
今年も-東京オペラの森2022—のプログラムとして、VOCA展展示室内で行うミュージアム・コンサートを開催する予定です。
現代美術の展示される会場で聴く現代音楽は普段では味わえない格別な時間をお届けいたします。
※チケットのご購入等、詳しくは音楽祭の公式HPをご参照ください。
場所:東京都千代田区有楽町1-13-1 第一生命保険株式会社 日比谷本社1F
VOCA展の30周年を前に、第一生命が所蔵するこれまでのVOCA賞作品を一堂に会し紹介いたします。
(一部の作品は展示されない期間があります。2022年VOCA賞作品は4月以降に展示します。)
展覧会名 | 会期 |
---|---|
VOCA 30 Years Story / Tokyo |
2022年3月11日(金) ~ 11月30日(水) 8:00〜20:00 第一生命ロビー ※無休 |
VOCA展は来年 (2023年) で30周年を迎えます。これを記念して第一生命ロビーでは、第一生命の所蔵する1994年から2022年までのVOCA賞受賞作品29点すべてを公開する『VOCA 30 Years Story / Tokyo』を3月11日(金) ~ 11月30日(水)の期間で開催することが決定いたしました。
また、この展示につづいて2023年3月には『VOCA 30 Years Story / Kobe』を、神戸・原田の森ギャラリーにて開催いたします。「VOCA展」が毎年紹介してきた、その時代を反映する作品をあらためて一望できる、またとない機会になります。
*原田の森ギャラリーでの展示については詳細が決まり次第HPにてお知らせいたします。