上野の森美術館

現代美術の展望 VOCA展 —新しい平面の作家たち—

趣旨

21世紀に入ってから、私たちは2011年の東日本大震災、そして2020年からは新型コロナウイルスの感染問題と、何度も大きな災害、疫病などに見舞われてきました。世界中で経済活動が停滞し、さまざまな行動が制限されるかつてない状況も経験してきました。さらに、現在では複数の国と地域で戦争が行われ、メディアを通じて惨禍を目撃しない日はありません。しかし、厳しい状況下に置かれても、いままでおこなってきた文化活動を持続し、新しい文化・芸術を育て、世界へ発信し、将来へと引き継いで行くことが私たち美術に携わる者の役割であると考えます。

1994年に創設した「現代美術の展望 VOCA展 —新しい平面の作家たち—」(The Vision of Contemporary Art)は、これまで幾多の有望な作家たちを世に送り出し、そこから現在の美術を担う作家も数多く現れています。この展覧会によって生まれる作品や文化を未来へと引き継いで行かなければならないと考えております。

この趣旨を実現させるため、本展覧会では、全国のアートの現場に精通した美術館学芸員、研究者などに依頼して、将来性のある若い作家を推薦していただきます。推薦者および推薦理由は公表され、また推薦された作家全員に出品を依頼いたします。このようにして私たちは日本全国の声をできるかぎり直接的に反映させたいと思います。私たちが待望する作家は、独自性を持ち、いま・そこで制作していることの必然的な成果を具現している者、国際的に通用する力強い表現力を持つ者であります。

本展では、あえて範囲を平面の作品に限定いたします。20世紀後半、美術のメディアや形態が多様化し、立体作品などの先鋭的な仕事にくらべて平面の作品が時代遅れに見られた時期もありました。しかしその後、ちょうど本展がスタートした90年代半ばから徐々に「絵画の復権」が謳われ、平面の仕事がふたたび見直されてきたのです。現在、VOCA展には絵画や版画、写真、映像作品も出品されています。私たちが望むものは、現代美術の多様性を反映しつつも、平面というメディアに対する意識と強靭なコンセプトに裏打ちされた作品です。

VOCA展は、第一生命保険株式会社より全面的なご理解、ご支援をいただいております。本展の創設時にくらべて、今日、美術を取り巻く社会、経済の状況はかなり厳しくなっています。にもかかわらず、30年以上、長い視点で揺るぎなく継続している同社のメセナ事業は、現在の美術界にとって大きな意義があると考えます。本展は上野の森美術館が主催し、第一生命保険株式会社が協賛し、また、美術の専門家から構成される選考委員の協力のもと、開催いたします。

以上の趣旨にできるだけ多くの皆様のご賛同をいただきたく、ここに謹んでお願い申し上げます。なお、このたび、VOCA展に関わるすべての人がこの展覧会の仕組みを理解し、安全に活動・運営するためのガイドラインを策定いたしましたので申し添えます。

2024年5月
主催者