展示のご案内Exhibition
選考所感
高階 秀爾 (選考委員長/大原美術館館長)
今回の「VOCA展2010」の出品作35点は、それぞれ独自な個性を物語っていて、現代の平面作品の豊かな多様性をよく示すものと言える。VOCA賞を得た三宅砂織の「内緒話」「ベッド」は写真の技法をも用いた特異な手法で少女の微妙な心理状態を白黒の世界に印象深く表現した秀作である。奨励賞の中谷ミチコの謎めいた人物像や坂本夏子のゆらめく空間表現も今回の収穫であり、佳作賞の清川あさみ、齋藤芽生(佳作賞と大原美術館賞)もきわめて力のある新しい大型才能として将来を期待させる。
酒井 忠康 (世田谷美術館館長)
絵画(平面)の可能性をひらく試み──という点に関して、今回はたいへん興味深い作品が賞の候補に挙りました。VOCA賞の三宅砂織「内緒話」「ベッド」は写真と絵画の「間」に潜む実験性とタイトルに示された「物語性」、奨励賞の中谷ミチコ「そこにあるイメージ I」「そこにあるイメージ II」は立体と絵画の”間”を開示して、ちょっとトリッキーな視覚の遊びにしているところが面白い。どちらにしても新鮮な仕事となっている。好感をもちました。
建畠 晢 (国立国際美術館長)
具象絵画全盛の時代は今回のVOCA展にも如実に反映されていた。しかしその傾向はきわめて多様で、一つのイズムが支配する状況でなくなっているともいえる。VOCA賞の三宅砂織の作品はユニークな技法とプライベートな発想のイメージが結びついたチャーミングな世界をなしている。奨励賞の中谷ミチコの絵画的な謎へのスリリングな問いをはらんだイリュージョン、坂本夏子の空間的なゆらぎを演出する不思議な方法にも魅せられた。
本江 邦夫 (多摩美術大学教授)
見通しの悪い世相を反映してか、閉塞感のつよい作品に真実味があったように思う。大賞となった三宅砂織はその典型。現像の特性をいかした重層的かつ錯綜した表現で精彩を放った。奨励賞の坂本夏子の打ち震える表面はまったく背後を見せようとしない。同じく中谷ミチコの逆レリーフ的な画面作りも実に内面的である。刺繍を交え複雑な面作りをする清川あさみにしても、第一印象は夜空のヴィジョンであり、齋藤芽生の世界はまさに闇に支配されている。薄久保香、風間サチコ、水谷一等の実力派がいま一歩力を発揮できなかったのも、今回の特徴といえよう。
荒木 夏実 (森美術館キュレーター)
「平面」をキーワードにして集められた作品と対峙しながら、改めて「平面」の解釈の多様化を感じた。インスタレーションやビデオなどのメディアを多くの作家が取り入れ、その必然性が強まる今日において、平面もまた「動き」を内部に取り込む傾向が見られる。受賞した三宅、坂本、中谷の三人ともに、平面特有のイリュージョンを効果的に使いつつ、動きの要素を内在させている点が興味深い。
光田 由里 (美術評論家)
ひとつの動機が新しい方法を必要とする時、本展の求める新しいイメージが生まれる可能性がある。三宅砂織の浮遊する少女たちの傷と揺れは、前衛写真がかつて編み出した方法が、現代の動機によって転生して生まれた。坂本夏子の画面のゆがみとおののきは、連続幾何学模様が崩壊する寸前に身体と呼応する感覚がある。女性たちが鋭敏に受け取め投げ返す傷とおののきの描写に、今年のVOCA展の成果が象徴されていると思います。
南嶌 宏 (女子美術大学教授)
大賞及び奨励賞の3点は平面芸術の可能性をそれぞれの立ち位置から真摯に問いかけるものであった。大賞の三宅砂織は絵画や版画のように見える写真の振る舞いを通して、平面そのものの潜在的な力を浮上させている。坂本夏子には揺らぐイメージとそれを描く力の重なりを。中谷ミチコにはトリッキーな見せ方ではあるがイメージの視覚的顕現について考えさせられた。